90s Tokio Kumagai

80年代〜90年代のTOKIO KUMAGAIにおいてはエッジが効きながらも見事なまでに日常にブレンディングされるディテールが多く見受けられます。アブノーマルさを極限までに小さく留めるデザイン性と其れ等を可能にする技術は、ジャパンメイドである事が誇らしくもあり、さらに1着の其れと向き合う際には都度驚愕させられる程にファッションへの貪欲さが凝縮された大変美しい洋服であることを、先に布石として記しておきます。

大変失礼な内容であることは承知の上で、国内よりヨーロッパ、特にフランスという国で極めて高い評価を得ている印象を受けます。初めてヨーロッパで評価を獲得した国もやはりフランスであり、そのファーストプロダクトは「靴」で御座いました。構築的で美しいその道具は、パリジェンヌを魅了し、ファッションフリークを唸らせましたが、実際的なその足し算の美学を、靴に留まらず、衣類へと昇華させた80年代後半〜90年代。特に紳士用の作品にはそれが顕著に見受けられる素晴らしい内容で御座います。本品はヘヴィウールというべき重厚で肉厚な御素材を使用しておりますが、チャコールグレイに薄らと混ざるホワイトのネップは、“ 上質さ ” と “ 品の良さ ” が伺える、素晴らしい選定。青年とセーヌ川を想起させる佇まいは、しかしながら触れるとデューティーさを明瞭に感じとることができ、それは現実性のみを具した内容で御座います。雨や天候に左右されることのない冬のお召し物と御含み置き頂ければ幸いです。ベースはミリタリーダッフルを教科書にしながらも、特徴的な前立てと、蓋をあければハーフジップ仕様。さらにスリットと表現したほうが正しいであろうあまりにも短すぎるサイドベンツには、釦により開く/開かないを調整できる都会的な施し。首もとはストラップ装備によりしっかり暖めることが可能。前身頃、後ろ身頃にはチャコールグレーのベースカラーに対するフォレストグリーンの直線的なラインは、特にバックスタイルが素晴らしく、ヨークの淵を深いディープグリーンで彩ることにより、低めに設定されたヨークディテール本来の位置を視覚的に認識することができ、其れをひとつのアートとして捉えることができる素晴らしい選定。安易にグリーンのライン入れたベクトルではない、計算に計算された内容は、洋服としての魅力を最大限に引き出す有益性のみが残るものでしょう。

以上のディテールは、不必要の美学とも謂うべき内容であり、アブノーマルさを極限までに小さく留めるデザイン性、または足し算の美学、にもかかわらず日常に耐えうる御素材と純粋な暖かさ、詰まるところ、それらすべては実際的で現実的だからこそ叶う、極めてデイリーユースなグレイッシュコートであります。ヨーロッパで評価を獲得している内容を、明確に感じて頂ける作品であると同時に、ショルダーの美しさ、アームの振り、重厚な佇まいでありながらミニマリズムを感じられる気持ちがいい着用感は、野暮な印象を微塵も感じさせない、言葉そのまま素晴らしい “ 仕立て ” であり、純粋に1着コートとまして、自信をもってお勧め致します。本文の通り、厳しい寒さを迎える冬のお召し物として、是非に。